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岡山地方裁判所 昭和46年(む)376号 決定

被疑者 下田十三男

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する暴力行為等処罰に関する法律違反、道路交通法違反被疑事件につき、弁護人から準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

岡山地方検察庁検察官宇陀佑司が昭和四六年六月二五日付でなした別紙第一記載の接見等に関する指定はこれを取消す。

理由

一、本件申立の趣旨及び理由は別紙第二記載のとおりである。

二、当裁判所の事実調べの結果によれば、被疑者は暴力行為等処罰に関する法律違反、道路交通法違反被疑事件について昭和四六年六月二二日逮捕され、同月二五日代用監獄岡山西警察署に勾留されていること、同日岡山地方検察庁検察官宇陀佑司が別紙第一記載の接見等に関する指定書(以下一般的指定書という)なる書面の謄本を岡山西警察署及び被疑者宛て発送していることが認められる。

三、ところで刑事訴訟法三九条三項による接見の指定をなすに当り、本件指定にみられるような、いわゆる一般的指定書を発し、別に発する具体的指定書を持参しなければ接見交通が許可されないという方法がとられた場合、右一般指定自体を不服申立の対象とし、刑事訴訟法四三〇条の準抗告の対象となり得るかに関し、いわゆる一般的指定は、接見の指定をしないという不作為であり、当不当の判断の対象となる積極的な処分ではなく、更に監獄の長に対する指示もそれ自体は一つの通告の意味を持つに止まることを理由に、消極に解する考えもあるが、刑事訴訟法三九条が一項で原則として自由に弁護人と被疑者との接見交通権を認めている法の趣旨からして準抗告の対象となりうる同法三九条三項の処分とは、積極的な処分に限らず、およそ弁護人の接見交通権を制約する一切の行為が含まれるものと解すべきであり、更にいわゆる一般的指定がなされると、具体的指定のない限り被疑者と弁護人との接見が不可能になつているのが現実である以上、検察官のかかる指定の法上の根拠は同法三九条三項以外にはないといわねばならず、従つて一般的指定は同法三九条三項の処分であり準抗告の対象となりうる。

四、次に右一般的指定が違法か否かについて判断するに、前述した如く、一般的指定書が発せられると具体的指定書が発せられない限り弁護人は被疑者と接見することができず、刑事訴訟法が三九条一項で原則として自由に接見交通権を認め、ただ例外的に同条三項で捜査のため必要ある時被疑者の防禦権を不当に制限しないという制約のもとに具体的に接見の日時、場所、時間を指定する権限を捜査官に与えた法の建前を逆転させるものに他ならず、このような一般的指定は、捜査官が裁判官にすら認められていない接見禁止を行なうことによつて弁護人の接見交通権を侵害するものであり、違法な処分といわなければならない。

尚検察官は一般的指定書をそのご代用監獄の長および被疑者より返還せしめ更に六月三〇日午後五時五〇分から六時一五分までの間弁護人に被疑者との接見を許しているから準抗告の利益はない旨主張するが、一般的指定書を返還せしめても、一般的指定の効力が依然として存続し、弁護人が次の接見を求めるにはあらためて検察官の発する具体的指定書を持参しない限り被疑者と接見しえない以上、やはり準抗告の利益はあるものと考えられる。

以上により、本件における指定はこれを違法として取り消すべきものであるから刑事訴訟法四三〇条、四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。

(別紙略)

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